Diary 2010. 8
メニューに戻る
8月13日 (金)  トップレフト

【137】トルコが育てた日本の作家【ヴァタン紙】【2005.04.24】
http://www.neo-pro.jp/makoto/shinbun/honbun/00137.html

上記の記事で、筆者のサーデット・オゼン氏が紹介している黒木亮氏の著作「トップレフト」のトルコ語訳が“ビズィム・キタップラル”という出版社からようやく刊行されました。

トップレフト
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=4396330596

Top Left(トルコ語版)
http://www.bizimkitaplar.com.tr/kitapdetay.asp?ID=141

2004年の秋、当時、ジャン・ヤユンエビという大手出版社の編集者だったサーデットさんへこの本の概要を伝え、「トルコ語訳が出版されたらどうだろうか?」などと話し合って以来、既に6年が過ぎています。

翌年、ヴァタン新聞に転職したサーデットさんが、著者の黒木さんに電話インタビューして上記の記事を書いてから、ある出版社の編集長に翻訳出版を勧めたところ、この編集長が乗り気になり、アンカラ大学日本語学科のジャン・エルキン氏に翻訳を依頼、翻訳も完了して、“いよいよ出版か?”と思われたのが2007年の秋でした。

しかし、出版社の都合でこの企画は頓挫してしまい、その後どうなったのか、経過が良く解らないまま、『あれは夢だったのか?』と思い始めたら、紆余曲折を経て、ようやく出版される運びとなったのです。

先週、久しぶりにサーデットさんと連絡をとりあい、「いよいよ本当に出版されますね」と話したら、彼女は最近の経過についても知らなかったらしく、少し驚きながら喜んでいました。

私も今、トップレフトの名場面を数ページ、トルコ語で読み返して、しみじみと喜びに浸っています。

20100813-1.jpg



8月20日 (金)  カドゥキョイの居酒屋風レストラン

ラマダンに入っていますが、カドゥキョイへ出掛けたら、日没前というのにこの通り。しかも、この店は居酒屋風のレストランなので、殆どのテーブルに酒類が置かれていました。でも、賑やかだったのは、この一画ぐらいで、普段に比べて、ずっと人出は少ないようです。暗くなる頃には、もっと賑わうでしょうか? 未だ日は沈んでいないけれど、もう7時だから、そろそろ飲み始めても良い時間かもしれません。

この時期、飲酒の是非が度々話題になったりしていますが、確かに昼間から飲んだりするのは拙いでしょう。トルコにはこれが結構多いので驚かされます。私は相当飲む口ですが、それでも明るい内から飲むのは、旅行に出たり祝い事があった時くらいで滅多にありません。トルコでは飲酒運転も多いようです。酒の飲み方を知らないのでしょうか。こういうのは、もっと厳しく取り締まるべきだと思います。  

20100820-1.jpg



8月21日 (土)  コマーシャルの撮影

10日ほど前、映画などにエキストラを配給するエージェントから連絡があり、「一人でカメラに向かってトルコ語の台詞を喋る役らしいが・・・」とコマーシャル撮影の出演を依頼されたけれど、別に断る理由もないし、二つ返事で引き受けたところ、翌日、その台詞のシナリオが転送されて来ました。

シナリオはなかなか面白く、ちょっと興味を引かれたので、元の発信者の氏名を見ると、メリク・サラチオウルとなっていて、トルコにそれほど沢山ある名前でもなさそうだから、ネットで検索すれば何か情報が得られるかもしれないと思い、グーグル(トルコ語仕様)で調べたら、新進気鋭の映画監督メリク・サラチオウル氏について記されたページがいくつもヒットしました。84年の生まれ、ヨーロッパでも注目を集めている若手なんだそうです。

『これは面白いかもしれない』と思っていると、またエージェントのおばさんから電話が掛かって来て、「撮影は月曜日なんだけれど、監督がその前にどうしても一度会っておきたいと言うんだよ。明日の金曜日はダメかな?」なんて、少しお願いするような調子でした。

というのも、この前に依頼されたコマーシャルの撮影では、制作会社の横柄なアシスタントのオネーチャンが、「撮影の前に一度コスチュームのチェックに来てくれ」などと電話口で偉そうにぬかすものだから、「一日分しか日当が出ないのに、そんなもの行けるか!」とゴネまくり、結局、撮影日だけしか行かなかったのです。

しかし、今度はちょっと事情が違います。「うん、いいよ」と快く答えたので、エージェントのおばさんは少し拍子抜けしたかもしれません。

それから暫くすると、メリク・サラチオウル氏本人が電話してきて、「どちらにお住まいですか? 私がそちらへ出向いても良いのですが・・・」と非常に丁重な言い方でした。これには私が恐縮してしまい、お互いの間をとって、カドゥキョイで待ち合わせることにしました。これは本当に簡単な顔合わせで、会って30分も雑談したでしょうか。メリクさん、何処にでもいそうな愛想の良いトルコ人青年でした。

雑談中、メリクさんは、日本の映画監督として先ず小津と溝口の名をあげ、今村昌平が好きだと言うので、私も自分の高校の一年先輩に今村昌平の子息がいて、その縁で学校へ今村昌平が講演に来たこともあるなんて話を披露したら、結構喜んでもらえました。

本当は、この子息である先輩に映画同好会みたいな集まりでも世話になったけれど、新進気鋭の映画監督に、『高校時代は映画を良く観ていました』と言うのは恥ずかしいような気がして、その辺は少しぼかして話したのです。なにしろ、その頃、私が特に熱中して観た映画は日活ロマンポルノだったから、恥ずかしくて、当時観た映画の話などできるわけがありません。

月曜日の撮影には、メリクさんとコンビを組んでいる映画監督ハック・クルトゥルシュさんも来て、この方がカメラを回していました。ハックさんは、メリクさんより三つほど年上のようです。他にも4人ぐらい、皆、若い人ばかりで、こんなに楽しいコマーシャル撮影の仕事は今までありませんでした。

しかし、芸術作品を手掛けているメリクさんとハックさんにとって、こういったコマーシャル撮影の仕事はどういう意味を持っているのでしょうか。二人とも楽しんで仕事しているようには見えたけれど・・・。

このコマーシャルは、ネット上で公開されるそうだから、その折にはまたお伝えします。

撮影が終ってから、彼らに「トルコ語を勉強するのに良い映画は?」と訊いてみたところ、彼らはいくつか古いトルコ映画の名を上げて説明した後、最後になって、「昨年、私たちが作った“Orada”という映画も台詞には良いトルコ語が使われていると思います」と控え目に自分たちの映画を上げたのです。

この映画は、欧州で非常に高い評価を受けているそうで、私は早速DVDを買って来て観てみました。重厚な印象深い映画でしたが、正直申し上げて、私には作品の持ち味が良く解らなかったかもしれません。でも、トルコ語の勉強にこれからも繰り返し繰り返し観るつもりです。そのうち味わいも少しは解ってくるでしょう。

しかし、こんな芸術的作品を作る二人の監督に演出してもらいながら役を演じたなんて、大変な名誉であると思います。

Orada
http://en.wikipedia.org/wiki/There_(film)

20100821-1.jpg



8月22日 (日)  バック率

コマーシャルの撮影、私の日当は150リラ、当日、即金で支払われるとエージェントのおばさんは言ってました。

撮影が終ると、メリクさんが丁重に礼を述べながら封筒を差し出したので、私もその場で中身を確認するのは無粋じゃないかと思い、そのままカバンに収めて、帰宅してから開けてみたところ、出てきたのは450リラでした。

メリクさんに電話して、何かの間違いではないと訊いたら、「エージェントとは400リラという話になっていたんですよ。50リラは私たちから交通費として受け取って下さい」と言います。

「では、その400リラの中にエージェントのコミッションも含まれているわけですね?」
「そういうことになるんでしょうか? エージェントから“撮影が終ったら、即金で払ってくれ”と言われていたので、その通りにしただけなんですが・・・」

「そうですか、私の取り分は150リラと聞いていたから、ちょっと驚きました。この業界の常識として、こんなものでしょうか?」
「私も業界のそういった部分は良く解っていないけれど、コミッションを250リラも取ってしまうのは多すぎるように思います。今回はエキストラじゃなくて、演技もかなりあったと主張して交渉したほうが良いですよ。50リラは私たちからなんで、400リラをもとに交渉してみて下さい」

もう夜だったので、“エージェントとは明日交渉してみよう”と考えていたら、ちょうどそこへ、昔は音楽業界でコンサートの手配などもしていたという友人から電話が掛かって来ました。それで、彼の意見も聞いてみたところ、「トルコでは、仕事した奴じゃなくて、斡旋した奴が多く取るのは当たり前なんだよ、そのエージェントはなかなか良心的なほうだと思うね。普通、300取って、100渡すぐらいじゃないかな」というのが業界の常識なんだそうです。

しかし、翌日、エージェントと交渉したら、「うちはここから税金払ったり組合費を出したりするから、余り渡せないんですよ」と言いながらも、割とあっさり、225リラは出すと譲歩してきたので、私もそれ以上は要求しませんでした。外国人としてトルコに住まわせてもらっているからしょうがないかもしれません。でも、彼らはトルコ人からも同様のコミッションを取っているわけで、こちらはやっぱり問題じゃないかと思いました。

トルコでは、翻訳や通訳を斡旋するエージェントもべらぼうなコミッションを取ります。以前、私もちょっとした翻訳で7割も取られていたのを偶然知らされて、がっくりしたものです。

溝口健二の“赤線地帯”という昭和30年代を舞台にした映画に、沢村貞子演じる娼家の女将が、パンパン役の京マチ子へ「うちは4分6だからね。承知しといておくれよ」と言い渡すシーンがあったけれど、トルコの通訳斡旋業者は、この昭和30年代の悪徳売春業者より酷いかもしれません。

最近の状況はどうだろうかと、試しに“ソープランド・コンパニオン募集”といったキーワードで検索かけて見たら、「当店は、吉原高級店並みのバック率70%です」なんて記載がたくさん出てきました。バック率、かつての玉割ですね、変なものを想像しないで下さい。コンパニオン嬢の取り分が7割で、業者が3割という勘定です。多分、このぐらいが当たり前で、その逆がまかり通るのは、社会の体質が良くないかもしれません。