【240】変わりゆくボズジャアダ【ラディカル紙】【2010.07.11】

7月11日付けのラディカル紙より、ハールク・シャーヒン氏のコラムを訳して見ました。これは、毎年、ボズジャアダ(ボズジャ島=テネドス島)で開かれる“吟遊詩人の日”の昨日の開催式におけるハールク・シャーヒン氏のスピーチだそうです。

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今年はボズジャ島において、私たちが“吟遊詩人の日”“ホメロスを詠む”と呼んでいる文化的イベントの9回目を迎えることになります。

トルコのこの10年を考えた場合、世界でも類を見ないこのイベントが9回目に達したのは、軽んじてはならない出来事でしょう。生存に関わる問題に明け暮れながら、グローバルな大衆文化の支配下に入った今日のトルコで、詩、ホメロス、アナトリア文化の継続性といったテーマは、大多数の人々にとって全て親しみのあるテーマではありません。

このイベントの重要性を高めている主なメッセージもそこにあります。芸術と文化での流行り廃りの向こうにある継続性を思い出させるのです。最近、よく聞かれる言い方なら、“原点に踏み込む”でしょうか。

思うに、この岸辺では今から2500年前もホメロスの詩が詠まれ、人々はそれにより、トロイア人であることの意味を考えたに違いありません。私たちも、詩を詠み、トロイア人であることの意味を考えてみましょう。

トロイア人として、西と東の間に挟まれ、勇士へクトルの代わりを見つけられず、迫り来る惨劇を警告したカサンドラに耳を傾けない代償について・・・。

私も少しカサンドラのように警告してみたいと思います。カサンドラは御存知のようにトロイア王プリアモスの娘です。神は彼女に、いつも真実を語りながら誰からも信じてもらえない運命を与えました。哀れなカサンドラは、アカイア人たちが残していった木馬を城内に入れぬよう、トロイアの人々に懇願したけれど、誰も耳を傾けませんでした。結果は周知の通りです。

私たちボズジャ島の住人も、あらゆる警告を無視して、木馬を城内に入れてしまいました。このまま進めば、末路はトロイアと変わらないでしょう。木馬の名前は“大衆観光事業”と言います。無秩序に入り込んだ全ての場所を駄目にしてしまいます。おそらく神が命じたのだから救いはないのでしょうか。しかし、我々は自分たちをもっと巧く守ることが出来たはずです。今からでも守れるでしょう。

このイベントは、もともとそうやって守る方策の一つであったし、今でもそうであります。

ここで申し上げたいのですが、ボズジャ島は、“大衆観光事業”に対して、その独自性を発展させながら身を守ることが出来ます。エーゲ海や地中海沿岸地域の多くを飲み込んで平らげてしまったこの怪物にとって、ボズジャ島は一口よりも小さいでしょう。怪物は、こういった類い稀な名所を素早く胃に押し込み、次の餌へ飛んで行ってしまいます。その後には、「我々は何をやってしまったのか?」と悔やむ人たちが残されるばかりです。

ならば、簡単に飲み込まれない固さの一口になるべきでしょう。森林を単なる材木倉庫と思うのと同じように、この島を単なる観光事業エリアと見ている業者たちへ、「他所へ行きなさい!」と言えなければなりません。その胃袋へ早く飲み込まれようと、自ら手を上げたり、他所へ似せようと努めたりせずに・・・。テネドスに、ボズジャ島になるのです。

この島は海岸だけで成り立っていません。他のエーゲ海の島々と異なる重要な文化的特徴があります。それは葡萄畑とワインの醸造です。

近年、この面では良い発展がありました。しかし、充分ではありません。島は未だ荒れたままの葡萄畑で溢れています。新しい建築計画を厳しく規制して、別荘建設の為に葡萄畑を潰そうとする動きに抵抗しなければなりません。

葡萄栽培とワイン醸造を希望する人たちには便宜を図り、島がワイン文化の中心になるよう努める必要があります。海外にはそういった地方があり、そこを訪れる旅行客たちは、葡萄畑をホテルの造成地とは思わず、風光明媚と美味によって楽しんでいるのです。

それから、ワインに最も似合うのが詩の世界であることを忘れてはなりません。ゆえに、このイベントを守る方策の一つであると言うのです。ここは世界で最も偉大な詩人ホメロスの土地であり、この風は彼が偲んだ風に他なりません。ポセイドンはその丘にいました・・・。私たちは、この地の草であり虫であり、あの伝統の末裔なのです。あの風を愛し、あのワインを飲み、トロイア人であることの喜びに浸り、悲しみに嘆きます。

ワインと詩によって、アイデンティティーを守って来たこの島は、世界を、そして人生をあらゆる深みから理解しようとする人たち、芸術と文化を愛する人たちへ懐を開き、「さあ、ここで思考をめぐらし、創造して下さい。ここは貴方の島です」と言わなければなりません。世界にはそういう地方があります。

ボズジャ島のレストランで、ギリシャの音楽が奏でられ、ギリシャの島代わりをしていた時代は過ぎ去りました。既に、ギリシャの島々へビザ無しの日帰り旅行が可能になっています。近々、もっと楽に往来できるようになるでしょう。キオス島の知事は、「来て下さい。買い物が出来て、土地も買えます」と私たちに呼びかけているのです。

ティッシュペーパーでも消費するかのように、新しい場所を求め、ここへもやってくる人々は、もうギリシャの島々を選ぶのではないでしょうか。実際、その動きは既に始まっています。

その為にも、私たちは独自な個性を維持しなければならないでしょう。夜明けと共に、トロイアに向かって詩を詠むのは、この目的の表出の一つです。ホメロスを意味もなく詠むのではありません。

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原文
http://www.radikal.com.tr/Default.aspx?aType=RadikalYazarYazisi&ArticleID=1007418&Yazar=HALUK ?AH?N&Date=11.07.2010&CategoryID=98

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